4.09 情報アーキテクチャ設計

POINT
■情報アーキテクチャは、Webサイトのビジネスゴールとユーザーゴールの両方を満たすWebサイトを設計することです。
■Webサイトのビジネス目的とユーザー目的を明確にし、これら両方を満たす最適なサイト構造の設計を計画的に行います。
■情報の組織化と構造化を行い、ユーザーがWebサイト内を迷わないように明確な導線設計を行い、理解し易い言葉でラベル付けします。

【情報アーキテクチャとは】
1990年代後半以降、開発するサイト規模が巨大化するのに合わせて、欧米の大手Web制作会社を中心にサイトの見た目(ビジュアルデザイン)だけでなく、構造や機能、内容(コンテンツ)などユーザーとのインタラクションのあり方の設計に注力する分野が注目されるようになりました。1999年に『情報アーキテクチャ入門』が出版され、その改訂版である『Webアーキテクチャ入門』(2003年)の出版とともに日本でもその考え方が広まっています。
情報アーキテクチャの目的は、Webサイト上でのビジネス目的と、実際にWebサイトにアクセスするユーザーの目的を明確にして、両方を満たす使い易いWebサイトを設計することです。
昨今のWebサイトの制作はページ数も膨大で非常に複雑化し、制作・運用する上で調整すべき内容や要望、仕様なども多岐に渡ります。このような複雑な状態をシンプルに整理して、状況や目的に合わせて必要な情報を分かり易く再設計する必要があります。

大規模なWebサイトになればなるほどプロジェクトは難題化し、デザイナーやディレクターだけでは、コンセプトを的確にビジュアルデザインやサイト構造に反映しつつ、クライアント(発注者)との意識調整も含めて横断的に詳細情報の整理や全体構造の設計までを担うことが困難な場合が多くなります。そのため、ビジネス目的とユーザーの目的の整理やWebサイトに必要な情報の整理と組織化、目的に合わせた情報構造の設計、さらにはそれら情報を分類化(カテゴライズ)や構造化(ストラクチャリング)、メタデータや制限語彙レベルでの情報ラベルを検討する担当者が必要になってきます。このような情報デザインを専門に担当する職種がインフォメーションアーキテクトです。

【インフォメーションアーキテクトの役割】
インフォメーションアーキテクトは特別な役割ではなく、複雑なWebサイトの目的や構造を整理し、それらの情報を理解して誰でもが理解できるようにシンプルに分かり易く再設計する人のことです。ユーザーが情報を見つけ易いように情報のファインダビリティ(見つけ易さ)を向上させ、より良いユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)を設計し、提供する事です。
建築家であり自らもインフォメーションアーキテクトでもあるリチャード・S・ワーマンは自らの著書『Information Architects』(1996年)の中でインフォメーションアーキテクトの役割を次のように定義しています。

1.複雑なデータの固有のパターンをまとめ、内容を明確にする人
2.第三者が情報を得るための道筋を自分で見つけられるように、情報の構造を示す地図を作製する人
3.誰でも理解し易いように情報を提供し、それらをまとめる人

インフォメーションアーキテクトの考え方

インフォメーションアーキテクトの考え方

【情報整理と情報設計】
サイト構造を設計する為には、そのWebサイトでどのような情報を誰に対して提供するかを検討しなければなりません。情報は整理するだけでは意味がありません。小規模のプロジェクトや経験豊富なデザイナーであれば(あるいは、人材がいないため必要に迫られ)、自らが情報整理と再設計を頭の中で行う場合も多いようです。そのためデザイン担当者からすると、情報アーキテクチャとは情報の整理であり、整理された情報をデザイン(設計)するのが自分の役割だと誤解しがちです。
情報アーキテクチャとは、ときには目的に合わせて見た目のデザインまで行います。これはユーザーにとって、適切な状態に情報をデザインすることが本来の目的だからです。

【Big IA、Small IA】
実際のところ、単一の商品を効果的に販売促進されるプロモーションサイトと、複数のWebサイトを束ねるグループサイトや複数の商品カテゴリーを扱う企業サイトの設計方法では、Webサイトに求められるビジネス要件も情報構造も全く異なります。
前者は情報のレイアウトやページ内における構成要素の整理などより「小さな」情報の設計であり、後者は企業として投資に対していかにビジネス目的を達成させる情報を将来的な設計も含めて構築していけるかといったより「大きな」視点での考え方です。「目的を達成するためのIA( Information Architecture:インフォメーションアーキテクチャ)」という意味では考え方は基本的に同じですが、「常にこの2つの視点がある」ということは忘れてはなりません。

近年、Webサイトのビジネス構造が複雑化・高度化している状況から、Webサイトそのものを設計する「Small IA」よりも、より上流のビジネス戦略の視点からWebサイトをビジネスの中で同設計していくかという意味での「Big IA」をインフォメーションアーキテクトに期待されることが多くなっています。

「Small IA」 「Big IA」
これについては、いろいろな意見が有るので言及を避けますが、興味のある人は検索してください。

【インフォメーションアーキテクトに 必要なスキル】
単にビジュアルデザインだけでなく、Webサイトの情報構造を整理し、適切にデザインするためにはさまざまなスキルが必要です。Webサイト上でのビジネス目的の理解、ユーザーのアクセス目的の明確化、ビジネス要件の整理、コンテンツの整理と組織化、ユーザーニーズやユーザビリティ調査とその分析、機能的なデザインを最適なインターフェイスに落とし込み、それを実現するための技術要件の整理、ユーザーインターフェイスの設計、SEOなど多岐にわたります。
インフォメーションアーキテクトにはさまざまなスキルが要求されますが、下記が4つのコアスキルです。

1.モックアップなどのデザイン実行能力とデザインマネージメント能力
2.リーダーシップとプロジェクトマネージメント能力
3.ユーザー調査の計画と調査結果の分析能力
4.コミュニケーション能力と調整能力

特に「調整能力」があるかないかが複数の部門にまたがるようなエンタープライズ規模の開発プロジェクトの情報アーキテクチャを進めていく上では成功のカギとなります。実はプロジェクト規模の大小にかかわらず、4つ目の「調整能力」が最も必要で重要なスキルです。情報アーキテクチャの作業は言い換えれば、必要な情報をユーザーにとって最適な形で再構成し、その情報をなぜそういう形で再構成すべきかを相手(発注クライアントを含むプロジェクトのメンバー)に理解してもらい、必要に応じた調整を行い続ける作業だからです。

情報の構造(インフォメーションアーキテクトに必要なスキル)

情報の構造(インフォメーションアーキテクトに必要なスキル)

【情報アーキテクチャの成果物】
インフォメーションアーキテクトはさまざまな成果物を制作します。Webサイトを設計するために必要なさまざまな作業を行い、最終的にビジュアルデザインと実装を行うために必要となる青写真をまとめあげます。主な成果物は次の10点です。

1.ペルソナとユーザーシナリオ(ペルソナとWebサイトの関係性を示す仮説ストーリー)
2.ユーザーテスト/ユーザビリティ調査の計画(テスト項目の設計と実行計画書)
3.ユーザーテスト/ユーザビリティ調査の分析レポート
4.競合分析調査
5.コンセプトモデルまたはハイレベルサイトマップ(サイト構造をサイトマップで視覚化)
6.コンテンツマトリックスまたはコンテンツインベントリ(必要な情報とゴールに掲載する情報)
7.コンテンツレベルの詳細サイトマップ
8.フローチャート(サイト内のユーザー導線と提供する機能の流れ)
9.ワイヤーフレームとコンテンツ仕様書
10.詳細画面デザイン(スクリーンレイアウト)

これらの成果物は必ずしも必要ではなく、プロジェクトの規模と予算に合わせて制作します。大規模なプロジェクトほど期間も長く、途中で仕様や要件、担当者が何度も変更される可能性が高くなります。その際に立ち戻れるWebサイトの青写真として、プロジェクトメンバーやクライアントとそれまでの過程を共有できるように、ダイアグラムなどの視覚的な成果物をより多く制作しておくことが望ましいでしょう。

【情報アーキテクチャのこれから】
Webサイトの構築において、運営者の目的を果たすこと、そして使い易いWebサイトの構造と適切な情報提示は必須のものです。情報アーキテクチャに求められるスキルは、特定の職種ではなく、あらゆるWebサイトが持つべきたしなみとして、制作に関わる人の全てが持っておくべき職能です。