1.06 インターネットの問題点

【急速な普及に伴う問題
インターネットの急速な普及に伴い生活が便利になる一方で、問題点も露わになっています。
大学や研究機関で学術研究目的で利用されることを想定して作られたインターネットは、限られた人の中での合意によって運用される性善説の上に成り立っていました。

「Rough Consensus and Running Codes」(大まかな合意の元に、まずはコードを動かしてみよう)

しかし、1995年以降インターネットの商用利用が一般化したことで、不特定多数が利用する世界に豹変し、ビジネス化が進む中で悪意を持ったユーザーが登場することとなりました。

【情報の深掘りと偏向化
インターネットでは膨大な情報がハイパーリンクで繋がり、あらゆる場所に移動し情報を入手できるため、ユーザーの知識向上に大きく貢献しています。
つまり、私たちは情報の入手先を自分で自由に選び、欲しい情報を望む限り得ることができるのです。
しかし、関連情報や参照先を深く掘り下げて詳しくなる一方で、特定の情報に偏ってしまう可能性があります。
また、さまざまな人がさまざまな情報を発信しているので、人間の多くの英知がインターネット上に格納されていますが、一方で次のような状況が存在しています。
・青少年の健全な育成にあたって有害とされる情報に未成年者がアクセスできる状況が野放しになっている
・自殺の方法や核爆弾の製造方法、違法薬物の製造方法など、社会にとって大きな不利益をもたらしかねない情報に対して誰もがアクセスできる

未成年者にふさわしくない情報へのアクセス制限対策として、情報の有害性を判断しフィルタリングを行うソフトは存在していますが、使用はユーザー自身の判断なので全ての利用環境で保護が達成できるとは言い難いのが実情でしょう。

【情報の信ぴょう性の問題
インターネットは誰もが情報発信者となれますが、その情報の真偽を保証してくれる機関も仕組みもありません。情報源として利用されることの多いWikipediaですら真偽の保証はありません。(現に、私自身がWikipediaの一部記事を編集していますので)
専門家からの情報も門外漢の情報も同じように閲覧者の目に触れることとなります。
こうした状況では、情報を見る側が適切な常識や真偽を検証する習慣をもって情報に接するしかないのですが、現時点ではインターネットユーザーの大多数がそのようなリテラシーを持つまでには至らないと言ってよいでしょう。

【個人情報の流出
インターネットではさまざまなプログラム言語を用いて作られたWebサイトや通信の仕組みが用いられていますが、悪意のある第三者がこれらの不備を突いて個人情報が流出するケースや、要求された仕様をプログラムで実現する際の記述方法の不備によって深刻な被害をもたらすケースもあります。
この場合、例えばクレジット情報を悪用され身に覚えのない請求が届いたり、個人情報そのものが転売に使われるという被害が起こり得ます。
この問題に関しては次のような対策がされています。
・個人情報保護法によって事業者に保護対策の義務を課す
・入念なテストを行った後のアプリケーション運用
・セキュリティーホール(脆弱性)の迅速な修正 →開発終了ソフトの危険性も認識してください
・SSL通信による情報の暗号化

事業を行う側にとって個人情報は顧客リストとして重要な資産であり、同時に他の事業者にとっても資産としての価値がある為、インターネットではなく人為的な要因で流出する可能性があることを忘れてはいけません。
この場合、機密事項や保管場所へのアクセスできる人を制限したり、IDとパスワードの厳重な管理を行うなどの方法があります。
また法律としては、保護された情報への故意のアクセスを禁じたり、適切な情報管理義務を定めた不正アクセス禁止法が存在します。

【著作権の問題
インターネットでは全ての情報がデジタルデータとして流通します。データは複製しても劣化しないという特性がある為、特に著作権の在り方について長らく議論されています。
著作権者の立場から見ると、例えば楽曲をMP3に変換したり、マンガを「自炊」(自分でスキャナーを用い、電子書籍化すること)し、他人が自由に閲覧・ダウンロードできる状況に置くことで、その楽曲やマンガの著作権者の権利が侵害されているケースがあり、著作権者からの申し立てにより行為者に対して高額の賠償請求が科せられる場合があります。
また、他人の書いた文章や見出しなどのうち、創作性の高いテキストを自分のブログなどに過度に引用して批評や意見の表明を行う場合の著作者の権利も議論となっています。DRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)という言葉も最近では多くの企業で認識され、使用されている様に感じます。
一方で、学術研究や新たな文化創生を考えた場合、デジタルデータの劣化しない特性や世界に開かれたネットワークによって、オリジナルの著作物から派生した二次創作物が生まれる可能性もある為、安易に統制すべきでない、という見方もあります。

【犯罪目的での利用
インターネットでは物理的に訪れることのできる店舗には置いていないような商品も販売されており、中には犯罪に繋がるような商品も存在します。
インターネットがIPアドレスを用いたネットワークに繋がれている以上、悪事を働いた者の特定は可能ではあるものの、フリーメールアドレスや匿名プロシキを利用したり、サイトの公開と移転を繰り返すなど、個人を特定されにくくする方法や、規制される前に商品を売るなど法律の抜け穴を利用した方法が用いられています。
こうした被害から消費者を守る手段として、特定商取引法が定められ、販売者の情報や返品方法に関する情報の開示が運営者に義務付けられています。
各都道府県の警察はサイバー犯罪対策部署を設けて事件の対応にあたっています。

【いじめの温床としてのインターネット
インターネットでは無料で簡単に利用できるサービスが多数存在する為、Webサイト制作の詳しい知識が無い人でも情報発信を行うことができます。
近年問題とされているのが、学校やクラス毎に掲示板を作成し、特定の人間を匿名で中傷するなどして心に深い傷を与える「裏掲示板問題」です。この対策は現実的には不充分で、実際に顔を合わせる空間では出しにくい感情を吐き出す場所として機能することで、場合によっては自殺者を生むなどの深刻な社会問題ともなっています。